1435年創業の由緒あるワイン醸造メーカーの名家マッツェイが所有するぶどう園は、いたるところにローマ時代の遺跡が残る小さな集落にあります。15世紀から現在に至るまで、キャンティワインの造り手たちの先導者であり続けるマッツェイの歴史は、キャンティワインの歴史といっても過言ではありません。キャンティの最高峰と呼ばれるマッツェイは、もっぱら地元の人のために造られる量り売りを飲んでいたぼくにとって、憧れのワイナリーでした。当時はおじいちゃんになったら飲めるかなと思っていましたが、こうして日本で、ましてや自分の店のリストに加えることができるなんて驚きです。
「ハリネズミのワイン」と呼んでいた、ぼくの最も思い出深いワインです。ローマに住んでいた頃、イタリア式生活の楽しみを教えてくれた仲良しのパン屋さん家族がいて、彼らはぼくの誕生日に、ぼくの生まれ年の「ハリネズミのワイン」をプレゼントしてくれたのです。それはそれはおいしかった。でも、どこを探しても同じものはない。残念に思っていたところ、何と日本で見つけてしまいました!!ヴィンテージも違うし、ハリネズミもちょっと可愛いらしいけれど、まさに同じワイナリーのもの。日本で再会できるなんて不意をつかれ、思い出が蘇ってきて、涙が出そうでした。調べてみると、このワインは大半が国内販売で、主に高級リストランテや高級ワイン店で売られるらしい。またラベルのイラストは、実はハリネズミではなく、ヤマアラシでした。なんでもオーナーがヤマアラシ好きとか。ヤマアラシはぶどうの木の樹皮を食べるので、ワイン造りには厄介な存在なのに、自然のサイクルを大事にして無農薬栽培にこだわり続けるこのワイナリーでは、暖かく迎えられているのです。
こちらは、名門マッツェイとは対照的に、建築の仕事に従事していたジュスティさんとザンザさんが、ワインに対する情熱から1995年にワイン造りを始めた新しいワイナリーです。十数年前には名前も聞かなかったワイナリーや、手入れが行き届かずに荒れていたぶどう畑のワインが、世界へ向けて出荷され、高い評価を得ています。かつてなかった新しい感覚の名前がつけられ、モダンなデザインのラベルが張られたワインがカーサ・ヴェッキアのリストにも沢山あります。ところで、この「DULCAMARA(ドゥルカマーラ)」の名は、ドニゼッティ作のオペラ「愛の妙薬」に登場する“いかさま薬売り”の名にちなんでいます。ドゥルカマーラは、金持ちで気ままな農場主の娘(ラベルのイラストの女性)に恋する純情な若い農夫に、“惚れ薬”と偽って安物のワインを高い値段で売り付ける男。ともすれば、安物ワインの代名詞にもなりかねないドゥルカマーラの名前を、ワイナリーの最も誇りとするワインにつけるなんて、自信にあふれて粋ではありませんか。'98ヴィンテージは残念ながら終了しましたが、パワーアップした'99がもうすぐ入荷します。お楽しみに!